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もし勝ったら、君は全てを得るのだ。
負けても、君は何も失いはしない。
ならば、ためらわず神はあるという方へ賭けたまえ。
ーパスカルの賭け
天使
ジョンさんは、ゲーム理論というものをご存知ですか?
John
あぁ、
人間同士が取引/交渉をするときに、どの合理的選択が一番有利になるかという論理を説明する理論で、
囚人のジレンマとか
ナッシュ均衡というのが代表的だな。
John
俺は嗜む程度にはかじってるし、相手と何か取引をしていると意識した時は使っていることにしてるよ。
天使
素晴らしいですね、今回はそれを15分前後で説明できる記事を作りましょう。
John
協力ゲームである以上、ここで裏切りを使う戦略に合理的な利益はないから、別にいいよ。
ゲーム理論の簡単な説明と例題
相手と取引をする際に有利になる打算をすること
John
ゲーム理論は、名前こそ「ゲーム」なんて冠してるからガキの遊びみたいに聞こえるが、立派な学問であり真面目な数学者や経済学者が作り上げた理論だ。
天使
確か、現代のコンピュータの根幹を築いた、アインシュタインとも並ぶ20世紀の大天才、ジョン・フォン・ノイマンが作り上げた理論ですよね。
John
その通り。ゲーム理論と聞いて馬鹿にする奴は、相対性理論を馬鹿にしてるのと変わらん。
John
内容は先ほど説明した通り、ゲーム理論の目的は、社会に存在する人間同士のやり取りを論理的に説明することだ。
John
逆を言えば、ゲーム理論を知れば交渉と言った取引の場面で自分を有利にするノウハウ、不利にならないノウハウが記されているということでもある。
協力ゲームと非協力ゲーム
John
ゲーム理論を学ぶ手始めとしては、協力ゲームと非協力ゲームについて説明した方がいいだろうね。
John
名前で大体察せると思うが、お互いに協力することで利益を最大化できるのが協力ゲーム、お互いの利益の最大化が成立せず奪い合いになるのが非協力ゲームだ。
John
マルチプレイのゲームをする人に分かりやすくいえば、PvEが協力ゲーム、PvPが非協力ゲームだ。
天使
文字だけですとちょっと何言ってるか想像できません。
John
例えばゲーム理論風にテーブルを作るのなら、こんな感じだろう。
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PlayerA 戦略1 |
PlayerA 戦略2 |
PlayerB 戦略1 |
Aに-1点、Bに-1点 |
Aに-1点、Bに-1点 |
PlayerB 戦略2 |
Aに2点、Bに2点 |
Aに-1点、Bに-1点 |
John
これは極端にわかりやすくした協力ゲームの表だ。PlayerのAとBがそれぞれ自分達が持っている戦略を実行した場合、どのような結果になるかを表している。
John
さて、ここで簡単な問題。自分がPlayerAとして得点を最大化させる場合、自分はどの戦略を選ぶべきかな?
天使
どう考えても戦略2を選ぶ理由がありませんよね。Aさんは戦略1を選ばざるを得ません。
John
その通りだね。PlayerAには戦略1と比べて、戦略2を選ぶ価値がない。だから必然的にAさんは戦略1しか選ばない。
天使
もちろん、Aさんと同じく戦略2しか選択肢はありません。
John
そういうこと。であれば当然、PlayerAは戦略1、PlayerBは戦略2を選び、双方が2点もらえることで得点の最大化をさせるのがこのゲームの解となる。
John
このようにお互いの利害が一致した結果、双方が協力して利益の最大化を目論むのが、協力ゲームだ。
John
ただ、現実ってのは必ずしもこうやって協力した方がいいとは限らないよね。世の中には、自分の利益を最大化させようとすると、相手の利益が蔑ろにされることが当たり前のようにある。
John
これが非協力ゲームのテーブルだ。さっきのと比べてみよう。
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PlayerA 戦略1 |
PlayerA 戦略2 |
PlayerB 戦略1 |
Aに1点 Bに-1点 |
Aに-1点 Bに2点 |
PlayerB 戦略2 |
Aに0点 Bに2点 |
Aに2点 Bに-2点 |
天使
どちらかが何かを得ようとすると、もう一方の相手が得られなくなってますね。
John
そう、こんな感じで自分の利益の増減と相手の利益の増減がかみ合わず、利益の奪い合いになるのが非協力ゲームだ。
ナッシュ均衡
John
ナッシュ均衡(きんこう)ってのはわかりやすく言えば、Player同士が最善の選択肢を選びあい、それ以上の変化が必要なくなることだ。
John
さっきの協力ゲームなんかが極端にわかりやすいが、PlayerAもBもあれ以上にまともな選択肢がない。なのでPlayerAは戦略1、PlayerBは戦略2を選ばざるを得なかった。
John
仮にもさっきの問題で、Aさんが3点、Bさんには4点という感じで手に入る点数に差があったとしても、Aさんは他にまともな選択肢がないので、戦略を変更することはない。Bさんも然りだ。
John
次はゲーム理論を利用した有名な思考実験をやってみようか。
ゲーム理論を使った思考実験
John
ゲーム理論を使った思考実験をいくつかやってみよう。
John
一見すると、ただの場当たり的な博打や、完全ランダム要素に見えるものも、ゲーム理論を駆使して打開できるようになる一方、ゲーム理論を逆手にとって攻略不可能の難問を作ることもできるぞ。
たった一言で期待値以上の協力ができる交渉術
John
俺と天使の二人で「協力」か「裏切り」かを選ぶゲームをするとしよう。
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John 協力 |
John 裏切り |
天使 協力 |
双方に3 |
John5 天使0 |
天使 裏切り |
John0 天使5 |
双方とも1 |
John
このように、お互いが選んだ選択肢次第で点数が配分されるゲームで、これを10ラウンド行って可能な限り自分の利益を最大化させるというものだ。
John
この問題を単なる博打だと思い、お互い無策な選択をしたとした場合、1ラウンドにおける各人の期待値は(3+5+0+1)/4=2.25、これを10回やっても22~3点程度だ。
John
しかしたった一言、相手に宣言するだけで24点以上は確実にする方法がある。
天使
たった一言で確実に期待値を超える点数を得られるような魔法の言葉があるんですか!?
John
ゲームの開始1ラウンド目から、相手に向かって「一度でも俺を裏切ったら二度と協力しない」と宣言すればいい。
John
よーく考えてほしいことなのだが、相手の得点は俺の選択肢によっても影響がでる。それを逆に利用すれば、相手の選択肢をある程度操作することもできるようになるんだ。
天使
なるほど!相手の得点に介入できる自分の立場を利用したのですね!
John
こうなった以上、相手は自分の利益を最大化させたいのであれば、最低でも8ラウンドはこちらに協力せざるを得なくなる。
John
これによって、非協力ゲームだったはずのこのゲームは一時的に協力ゲームと化し、自分は確実に24点は得ることはできるし、残った2ラウンドだって仮にも互いに裏切りあっても、26点までなら確実に狙える。
John
このように、一見するとただの確率や統計でしか考えられないようなことでも、ゲーム理論を利用して機転を利かせば、確率や統計なんかよりも高い数値をたたき出すことだってできる。
天使
そういえば、実はギャンブラーほどデタラメな博打ではなく、綿密な計算と論理的な予測に基づいて選択しているって聞きますね。
天使
ジョンさん、実はギャンブラー向きなのではないでしょうか。
John
いや、俺ギャンブルとか嫌いだからパチンコとか一度も行ったことないし、ポケモンでもポリゴンはスロット打たずにコイン全額現金で手に入れてたわ。
お金の分配ゲーム
John
これはタネがわかると簡単に相手を出し抜ける問題だ。
John
突然だが天使くん、俺と君で1万円を分配するとしよう。
John
この一万円は天の神様がお渡しになったもので、現在はどちらのものでもない。
John
神様は俺たちに、「ジョンは自分と相手で配分する金額を提示せよ。天使がその配分に納得すればそのままの金額がお前たちの物になるが、納得がいかなかった場合は双方とも1円も得られずこの1万円は消滅する」と仰せになったとしましょう。
John
さて、ゲーム理論的に考えて、俺は君にいくら渡せばいいと思う?
天使
また理論を駆使して、自分だけ割合が多くなるように細工をするのですか?
天使
…私への配分はいくらになるんですか?4千…3千…2千円?
John
…俺が君に提示する配分は、「俺が9,999円、君が1円」だ。
John
つまり、俺がいくらの配分で提示しても、そちらは俺の配分を断って自分の利益を0円にしてしまう選択肢は最初からあり得ないんだよ…!
John
さぁ!互いに納得した配分の結果の利益を受け取るがいい! こ の 1 円 を な!
解決不可能の難問 囚人のジレンマ
John
ゲーム理論を代表する思考実験として、有名なのはやはり囚人のジレンマだろう。
犯罪の共犯者としてAさんと一緒に捕まった貴方は、Aさんとは別の取調室に連行されます。
検察官は貴方に次のように言いました。
「互いともこのまま黙秘をするのならば、互いとも懲役は3年だが、どちらかが先に自白したのなら、先に自白した方のみ無罪にしてやろう。」
しかし賢い貴方はこの言葉の意味に気付きました。
「検察官、俺が自白しても相手が黙秘してたら、どうなるのかな?」
「…相手は10年程度の懲役だね。」
「もひとつ質問いいかな? …お互いに自白したらどうなる?」
「…君のような勘のいい容疑者は嫌いだよ。双方とも懲役5年だ。」
さて、貴方は自白すべきか否か?
John
これは協力ゲームと非協力ゲームが混ざり合う難問だな。 テーブルを書くとこうなる。
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自分 自白 |
自分 黙秘 |
相手 自白 |
双方とも-5 |
相手は0、自分は-10 |
相手 黙秘 |
自分は0、相手はー10 |
双方とも-3 |
天使
先ほどの非協力ゲームの例題をさらに禍々しい形にしましたね。
John
そういうこと。双方の利益の最大化を考えるなら本来は黙秘するはずなのだが、しっかりと相手を裏切って自白したほうが黙秘と比べて得するような内容が盛り込まれている。
天使
しかもその裏切りも、双方とも相手を裏切ってしまうと一気に損害へと一転してしまいます。
John
もちろん、この問題自体に最適な答えなぞ存在しない。これが囚人のジレンマだ。
John
せいぜい、相手が自分の事を信じて黙秘してくれることを祈るしかない。
天使
裏切りを使われた時点で、自分の不利益は確定しますもんね。
日常生活で使えるゲーム理論
John
最後に日常生活に応用できるゲーム理論を1つ、例題で上げていこうかと思う。
John
一見するとまともな選択肢がない。っとか、利益の分配率が喜ばしくない。なんてことがあっても、考え方次第で十分に選択肢を広げ、利益の最大化のチャンスを増やすことができる。
相手の状況を利用する
John
ネットで上がっていた面白い例題だったので、自分で解いてみた。答え合わせはしてないが、合ってる自信はあるので説明したいと思う。
John
この問題は要するに自分の会社の商品を買っている3社が結託してボイコットし、要求に応じなきゃ破滅だぞっとこちらを脅すことで、自分達の利益の最大化を狙うという交渉だ。
あなたは、世界で唯一、携帯電話の「電池」を作っている部品会社を経営しています。
携帯電話の本体を製造している製造会社は世界で3社だけ。あなたの会社はすべての製造会社に電池を供給しています。
携帯電話の売上は1台あたり2万円。1台売れると、売上の半分の1万円が製造会社の取り分で、残りの1万円があなたの会社の取り分です。
さて今年も3社すべてと契約しようとしていたところ、製造会社3社の代表がいっせいにやってきました。
「今年からは一台あたりの売上のうち、15,000円を製造会社に、5,000円をあなたの会社に、という配分にしたい。」
今までと比べ、あなたの会社だけが損をしてしまう契約です。必死に反論しましたが、結託しているらしく3社とも一向に引きません。「電池より本体を作る方が大変で費用がかかる、うちが本体を作るおかげで電池が売れているんじゃないか」などと色々な理由をつけてきます。
あなたの会社は他の収入源がないので、契約を結べないと社員が路頭に迷ってしまうけれども、5,000円で契約すれば、利益は減るものの社員一同なんとかなる水準です。(相手もそれを見抜いているかのような口ぶりで、契約するかしないか、必要に迫られています。)
ここで、あなたが突きつけられた状況は以下の通りです。
契約をする →一台あたり5000円の取り分…ぎりぎりやっていける
契約をしない→契約できずに0円…社員が路頭に迷う
さて、あなたならどうしますか?
3日で学ぶ交渉術!ゲーム理論入門さんより引用
John
この状態のままだと、テーブル表にすればこんな感じだろう。
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自社 要求を呑む |
自社 要求を呑まない |
3社 交渉 |
3社15,000 自社5,000 |
自社0、3社0 |
天使
この状態のままですと、悔しいですが相手の条件を呑むことでしか自分の利益を最大化させることができませんね。
John
そう、普通の人ならこれしか選択肢がないから、相手の条件を呑むしか選択肢がないと思ってしまう。
天使
…つまりジョンさんには、ほかの選択肢が見えていると?
John
冷静に状況を把握してみよう。まず、相手は1社ではなく3社であるということ。
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自社 要求を呑む |
自社 要求を呑まない |
A社 交渉 |
A社1,5000 自社5,000 |
A社0 自社0 |
B社 交渉 |
B社1,5000 自社5,000 |
B社0 自社0 |
C社 交渉 |
C社1,5000 自社5,000 |
C社0 自社0 |
John
ここで重要なのは、相手には妥協するという選択肢があるはずだということ。
John
相手が妥協を選択した場合は、こちらの選択を問わず相手の交渉は無かったこととして、こちらの対応を問わず今まで通りの契約を続行するとする。
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自社 要求を呑む |
自社 要求を呑まない |
A社 交渉 |
A社1,5000 自社5,000 |
A社0 自社0 |
A社 妥協 |
A社1,0000 自社10,000 |
A社1,0000 自社1,0000 |
B社 交渉 |
B社1,5000 自社5,000 |
B社0 自社0 |
B社 妥協 |
B社1,0000 自社1,0000 |
B社1,0000 自社1,0000 |
C社 交渉 |
C社1,5000 自社5,000 |
C社0 自社0 |
C社 妥協 |
C社1,0000 自社1,0000 |
C社1,0000 自社1,0000 |
John
本当にそうかな?こちらの会社と協力しなければ自分達の会社の損害にもつながる以上、どの会社だって利益は出したい。
John
A,B,Cの3社はこちらの会社が要求を呑まない以上、交渉という選択肢を取れば1円の利益にもならない損害へとつながる一方、こちらの会社は他の会社の内のどれかが妥協するだけでも十分だ。
John
というのも、1社としか提携できなかったとしても、今度はその1社が携帯電話業界のシェアを独占することになるので、携帯電話に必要な電池を売っているこちらのほうはその母数を失うことはない。
John
なので、自社の売り上げはそのまま。一方でこちらとの提携をきって携帯電話業界から撤退した会社は、抜け駆けした会社にシェアを奪われることになる。
John
つまり、この交渉のイニシアティブ(主導権)は最初から、こちらとしか提携できない3社側ではなく、3社のうちのどれかと提携できれば十分のこちら側にあったんだよ。
John
さて、3社の内のどれかと提携できれば十分のこちらに対して、相手はどうだろうか?
天使
他の3社と結託して初めて効果を表す交渉ですが、1社でも抜け駆けしたら自分の利益は0…。しかも他の会社を出し抜いて抜け駆けしたら利益も今までの1.5倍から3倍………はっ!
John
そう。相手の会社同士で囚人のジレンマがはじまってるんだ。
John
こうなってくるともはやチキンレースだ。自分が誰よりも早く抜け駆けするか、それともほかの2社を信じて交渉しつづけるか…。
John
そもそもにおいて、リスクを背負って交渉に成功したとしても、利益は1.5倍だ。これは自分の会社が抜け駆けしても、どれか1社が撤退してしまえば元は取れてしまう金額だ。リスクに対してこの利益ではだんだんと魅力的には見えなくなる。
John
3社が全員交渉しなければ成立しない利益と、1社でもはしご外しされてしまえば交渉と同等の利益を得られるあげくに他の2社が撤退すればジャックスポットの3倍の利益が得られる抜け駆け…。
天使
ここまでくると、撤退のリスクがある交渉を選ぶ方が馬鹿馬鹿しくなってきますね。
John
それどころか、むしろこちらとしては、今までの値段の方が安かった気すらするんだけどね?
John
若干値上げしても、こちらは代わりがいるのに対して、相手はこちらに依存することでしか利益を出せない以上、値上げを拒否する選択肢も正解とは言えなくなる。
John
しかも3社からすれば、値上げでライバルが脱落してくれるほど都合の良い事はない。ライバルが消えれば、その分のシェアが自分たちにも分配されるようになるのだから。
John
3社は一見すると、結託という協力ゲームで自分達を有利な立場に持ち込もうとしたが、そこに非協力ゲームとなるウィルスをぶち込んでやったことで、一転して友情を崩壊させる囚人のジレンマにさせることができる。
John
ゲーム理論を上手く利用することで、このように一見したらピンチな状況でも、合気道のように立場を逆転させられる柔軟かつ論理的な思考を身に着けることができるようになるというわけだ。
John
けど、こんなの毎日のように振りかざしてたら、確実に友達は失うから多用は厳禁だよ☆
天使
私も流石に1円だけ渡される下りでは、こんな人とは友達になりたくないって思いました。
まとめ
今回のまとめ
- ゲーム理論とは交渉を有利にするロジカルな学問!
- ゲームと名前がついてるが相対性理論にも匹敵する理論だ!
- ゲーム理論を利用すると統計や期待値を超える利益も狙える!
- ゲーム理論で逆算すれば相手の行動も操れる!
- 交渉のプロは不利な状況すら有利に転じさせてしまう!
- 悪用厳禁!誰かに恨まれても自己責任!
天使
ジョンさんはなんでこのような論理的な思考ができるのに、まともに大学も通わず無職なんかに甘んじたのですか?
John
リアルじゃ陰キャでビビりだから論理的な思考はできてもそれを口に出す勇気がないから。